正しかったギャラリーの判断
意図しているわけではないが、私の写真には何を撮影したのかが判りづらい作品がある。
今回のイメージを個展で発表したとき、ほとんどの来場者から「上空から撮影したきのこ雲?」と聞かれて戸惑ってしまった。
そう言われるまでは、正直そんな発想はなかったし、
多くの人から同じような感想を聞かされても、私自身まったくそういう風には見えないのである。
撮影した本人は、被写体の記憶からなかなか抜け出せないのかもしれない。
北海道の余市町。海岸線沿いの海中に2つの奇岩が突然現れる。
そのひとつ、海から突き出た今にも倒れそうな奇妙な形の「えびす岩」がこの作品の正体だ。
数年前までは国道から眺めることができたようだが、
現在は新しいトンネルが開通し、近くにある出足平漁港付近の旧道は行き止まりになっている。
景勝地にもかかわらず漁港に下りる国道に案内標識はなく、岩の近くの解説板には、
「積丹半島の海岸線にはこういう奇岩が多い、
商売繁盛の神様であるえびす様と大国様に似ていることからそう呼ばれるようになった」とある。
高さ数メートルでそれほど大きくは感じないが、厳しい自然環境を考えるとこのような形で残っていることは奇跡のようだ。
始めてここを訪れたのは2014年の暮れ。存在に圧倒されたが、これを撮影しようとは思わなかった。
堤防を兼ねた道路からの撮影だからアングルは限られているし、
画面の中央を水平線が横切り、観光地の記録写真のようなつまらない絵柄に思えたからだった。
撮影することはないと思ったが、年が明けて雪が降ると状況が変わった。
元旦に西の風を避けて(撮影できる場所を探して)訪れると、波も穏やかで静かに雪だけが降っている。
降る雪がフィルターになって岩の大きさや距離感がつかめない。
水平線は雪にかき消され、海と空が滑らかに一つになっている。
構図にさざ波をやさしく取り込んで、8秒間露光した。
水面が雲のように見えるのはそのためだ。
私の作品の中では幻想的で、異質な部類に入ると思うが、
昨年の個展ではギャラリーの意向で案内状や、広報用の資料に使った。
当初、この写真をメインのイメージに使用することに抵抗があったが、ギャラリーの判断は正しかった。
この写真を見て、初めてギャラリーを訪れたという来場者も多かった。
見る側が作品をどのように受け止めるか。それを自分だけで判断するのは難しい。
見せて伝えるということに関しては、ギャラリーの判断に任せることにしている。